卓上の書籍拡大版 学生発「推しの1冊」
本紙の連載企画「卓上の書籍」では各学部の図書館職員から、1冊の本を紹介してきた。今回は連載の拡大版。4人の学生が心から推す書籍を紹介するほか、プロの書店員が教える「自分に合う本」の見つけ方、生産工学部分館の建築思想を掲載する。ぜひここで、手元に置きたくなる1冊に出合ってほしい。
複雑な歴史をとっつきやすく
『もしも紫式部が大企業のOLだったなら』 井上ミノル著 (創元社、税込1,100円)
法学部新聞学科4年 藤原 勇太さん
ふじわら ゆうた 法学部図書館サークル所属。最近の趣味は旅行や鉄道模型など。
この本は歴史に苦手意識がある人にとって、学びやすい一冊だと思い、選びました。
物語の舞台は、私たちがよく知る現代の会社組織。例えば、天皇を「社長」、紫式部を「副社長秘書」といったように、歴史上の人物を現代風の役職に置き換えて描写しています。この本の一番のお薦めポイントは、そうした身近な設定を通じて、複雑な歴史が驚くほどしっくりと頭に入ってくるところです。
元々は祖母が新聞広告で見つけて薦めてくれたのがきっかけでした。その後、書店でシリーズを見つけた際、「これはぜひみんなに読んでほしい」と強く感じたのです。
私は文系として歴史の深さを再認識しましたが、特に理系の学生や、これまで古典を「受験のための苦痛な暗記科目」として捉えてきた人にこそ、手に取ってほしいと思います。専門分野の勉強の合間に、こうした本をパラパラと開いてみてほしいです。
どんな本でも、自分の世界を広げる良いきっかけになります。漫画やコラムのような気軽な形でも構いません。本を通じて新しい価値観に触れることは、きっと心の糧になり、あなたの世界をより充実させてくれるはずです。
あらすじ
日本一の大企業「内裏(だいり)商事」。そこに勤めるアラサー・キャリアウーマンの紫式部には、実は長期出社拒否の過去がある――。平安・百人一首の世界を現代に置き換え、遠い遠い古典の世界をグッと身近にした、マンガ・エッセー。
人間関係築く姿に勇気もらう
『これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~』 青木祐子著 (集英社、税込605円)
理工学部数学科1年 井口 実咲さん
いぐち みさき 理工学部Library Associate所属。趣味は水族館巡り。
中高生の頃、ずっと「真面目に生きよう」と気を張りすぎていました。そんな時に親から薦められて読み始めたのが、このシリーズです。
物語の舞台は会社の経理部。主人公の森若沙名子さんは、私以上にとても真面目な性格です。でも、時にはドジを踏んだり、失敗したりもします。そんな彼女の姿を見ていると、「完璧じゃなくてもいい」、「失敗しても大丈夫なんだ」と、張り詰めていた心がすっと軽くなるのを感じました。また、大人の社会も意外と人間味があって面白いものなのだなと身近に感じられるようになりました。
大学に入りたての頃、新しい環境で「誰とどう接すればいいかわからない」と不安になった時期があります。そんな時、この本を読み返し、森若さんが不器用ながらも人間関係を築いていく姿に背中を押されました。私にとって、一歩を踏み出す勇気をくれるお守りのような存在です。
失敗を恐れて動けなくなっている学生にこそ、ぜひ手に取ってほしいです。森若さんと一緒に、日々の小さな謎や失敗を笑い飛ばせるようになれば、大学生活はさらに彩り豊かなものになるはずです。
あらすじ
森若沙名子、27歳、経理一筋5年。恋愛とは縁遠い彼女だが、きっちりと働き、完璧な生活を送っている。今日もさまざまな領収書を処理する彼女は、社内の意外な人間模様を垣間見る―。仕事とシングルライフ小説の決定版!
間違いを指摘する関係に感動
『本と鍵の季節』 米沢穂信著(集英社、 税込880円〈文庫判〉)
文理学部国文学科1年 前田 蓮太郎さん
まえだ れんたろう 文理学部図書館サークル「SACLA」所属。好きなアーティストは米津玄師。
この本は夏休みに図書館で偶然出会い、何度も読み返した一番の思い入れがある作品です。
物語の主人公は、図書委員を務めるどこにでもいる不器用で等身大な二人の高校生。さまざまな葛藤の中で起こるミステリーを描いています。
印象に残ったのは、第4章の「ない本」というエピソード。ある本を探す過程で、主人公の一人が人を傷つけてしまいます。その時、もう一人の主人公が放った『いまのはちょっと、まずかったな』という言葉が、私の心に深く刺さりました。
この章を読んだとき、私は高校時代の自分を思い出しました。「それは違うんじゃないか」。そう言って、関係が壊れるのが怖くて口を噤(つぐ)んでしまったことが何度もありました。この物語の二人のように、対等な友人だからこそ、相手を尊敬しつつも間違いを指摘する。そんな選択肢もあったのかもしれないと、自分の過去を振り返るきっかけをくれました。
図書館には本だけはでなく、DVDやさまざまな展示など、日常を少しだけ楽しくしてくれる出合いがたくさん詰まっています。偶然手に取った一作が、その日を特別なものに変えてくれる。そんな体験を、ぜひ皆さんも図書館で味わってみてください。
あらすじ
高校2年で図書委員の堀川次郎。同委員会の松倉詩門と当番を務めている。彼と付き合うようになってから、なぜかおかしなことに関わることが増えた。開かずの金庫、テスト問題の窃盗──青春図書室ミステリー開幕!!
手帳から人の感性を読み解く
『他人の手帳は「密」の味 禁断の読書論』 志良堂正史著 (小学館、税込1,100円)
歯学部歯学科4年 得本 穣太郎さん
とくもと じょうたろう 歯学部学生選書委員。最近は友人と本学や他大学の学食を巡っている。
自分の生活をノートに書き留める習慣が、苦しい時期の心の支えになっています。今回選んだのは、他人の手帳を収集・公開している「手帳類図書室」の主宰者が書いた本です。
この本を読むと、市井(しせい)の人々が書いた「生の記録」としての手帳の価値を再発見できます。今のSNSは誰かに見られることを前提にキラキラした部分だけを切り取りますが、手帳は誰にも干渉されない、自分だけの脆い感情や失敗がそのまま残されています。本書に出てくる「フラジャイル(脆さ)」という言葉には、私自身、強く感銘を受けました。
この本は、手帳を書く習慣がない人にこそ手に取ってほしいと思います。自分の記録には価値があること、そして手帳を通じて、自分という人間を客観的に見出せることに気づいてほしいからです。
今はスマホ一つで何でも調べられますが、紙の本や手帳には、書いた人の筆圧や匂い、物質としての重みがあります。忙しい大学生活の中で、あえて「行間を読み、書かれていないことを想像する」という、普段使わない心の筋力を使ってみてください。それは、自身の「人間ならでは」の感性を豊かにしてくれるはずです。
あらすじ
手帳類につづられるのは、小さな決意や、後悔の念などさまざま。誰かが書いた手帳類を読むうちに感じられる「その人らしさ」の源は何か。市井の人々が残す小さな歴史との向き合い方の深淵に迫る異色の読書論。
日本大学図書館生産工学部分館 居場所を選べる空間
生産工学部図書館(提供=亀井准教授)
本学の図書館分館の中でも、「本を読む」「学ぶ空間」としての設計思想が息づいているのが生産工学部にある図書館だ。
入口を入ると、中2階のメインフロアを中心に1階から3階までを見渡すことができる。設計したのは高度経済成長期の日本の建築界をけん引した建築家の大正人さん。2022年度には優れたコンクリート建築として「DOCOMOMO Japan」選定建築に選ばれた。
当時としては先駆的な構造。大きな柱と梁で3階を支え、2階部分を吊り下げる施工技術「空中架構形式」を用いて広い空間を作り出している。これにより、一つの図書館にさまざまなスペースを作り出し、利用者が「自分の居場所」を選べる柔軟性を生み出した。自由開架式による完全なデパートメント方式で各学科の多くの専門図書を効率よく利用できる。
また、DOCOMOMO Japanに選ばれた理由の一つに、地域と溶け込む建物であることが挙げられる。多くの図書館は大きな壁に囲まれた設計になりがちだが、同学部図書館はガラス張り。一般市民もキャンパス外から学生の読書風景や会話をする様子を見られる。「地域に開いたものをつくる」という大さんの意識が生きている。
23年9月1日に行われた同図書館の見学会で、講師として登壇した同学部の亀井靖子准教授(建築計画)は「この空間は本を読むだけでは終わらない、さまざまな用途に対応可能な許容力を持っている建物だ」と述べた。







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