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特集・連載

鳥人間コンテスト 琵琶湖にかける熱い思い

7月29、30日に滋賀県彦根市の琵琶湖東岸で開催される「第45回鳥人間コンテスト2023」(読売テレビ主催)に、理工学部航空研究会(侭田勇哉代表=航空宇宙工4)と生産工学部津田沼航空研究会(岸井陽香代表=創生デザイン3)の出場が決まった。人力プロペラ機部門では、2016年を最後に優勝から遠ざかっている理工航空研が王座奪還を誓う。滑空機部門に出場する津田沼航空研は、優勝した年に使用した部品で製作した機体で、再び琵琶湖の空を舞う。熱気が渦巻く両航空研の現状を取材した。

理工 航空研究会 伝統と改革で王座奪還

2019年に学生記録を更新して2位に輝いた理工学部航空研究会。ことしも船橋キャンパス内の工房では、棚に飾られた準優勝の主翼に見守られて、急ピッチで製作が進められている。

同航空研が出場する人力プロペラ機部門はペダルをこぐ力を動力にして飛行距離を競う。パイロットとしてその重責を担うのは代表の侭田だ。

高校3年生のころ、テレビで学生新記録を樹立する瞬間を目にして、その勇姿に魅了された。大学に入学する前からトレーニングを開始、自宅近くの荒川の土手を自転車で走る日々を送った。

同航空研のパイロットに正式に決まってからも毎日の厳しい鍛錬は欠かさない。週2回のトレーニングでは、スクワットなどで立てなくなるまで足腰に負荷をかけたあと、自転車をこぎながら5分間で体力を回復させる。これを1セットに1時間半続け、瞬発力と持久力を養っている。

だが、体力強化以上に侭田が重視するのはチームワーク。「自分の体を仕上げても、みんなが機体を作ってくれなければどうにもならない」。メンバーへのリスペクトがあるからこそ強くなれるのだ。

ことしの機体「Möwe(メーべ、ドイツ語でカモメ)39&40」は従来と比べ設計が一味違う。これまではパイロットの負担を減らす目的で、ゆっくり長く飛ぶことを目指して設計していたが、風の影響を受けやすかった。

まさに昨年、強風に大きく影響を受けて5位。全体設計を担当した難波江舜(機械工3)は「このままでは来年も同じ結末になる」と、帰りの車内でコンセプトの大転換を決意した。

侭田のポテンシャルの高さに全幅の信頼を寄せているからこそ、パイロットに負荷をかけてでも速度が出る機体を設計することにしたのだ。

しかし、その道のりは困難を極めた。コロナ禍で技術の継承が途絶え、ことしのメンバーは設計未経験者ばかり。技術の蓄積という航空研の強みが揺らぐ中、まさにゼロからのスタートだった。

昨年8月には主翼の形状をコンピューター解析で最適化する仕組みを開発。従来の手作業から切り替えた。9分割した断面の形状を1㍉単位で算出し、主翼の性能を極限まで高めることに挑んだ。

主翼の骨組みなどに使われるカーボンの生成方法も基礎から見直し、既製品部分を自らが設計したカーボンに置き換えた。そして遂に機体の重さは過去最軽量の28・5㌔を達成。最高速度を出せる機体に進化を遂げた。

16年以来、優勝から遠ざかっている同航空研。伝統に新たなテクノロジーを融合させ、琵琶湖の王者復活を誓う。

生産工 津田沼航空研究会 新たな伝説つくりだす

生産工学部の全学科から集まった73人で臨む今大会。設計、翼、電装、コックピットの4班に分かれ「休日は朝から晩まで」の缶詰め状態で機体製作に取り組んでいる。

ことしの機体名は「Garuda(ガルーダ)」。インド神話に登場する霊鳥から名付けた。あらゆる空間を飛べるとされ、琵琶湖の覇者に返り咲く思いを込めた。

風を意識したGaruda。機体後方にある垂直尾翼は、ここ2、3年より10%大きく設計した。この翼で、より風に乗れるようになるという。

機体の製作は、昨年8月から年内完成を目指し始まった。しかし、製作開始から2カ月経った10月、主翼を支える桁に故障が発覚。

一から作る時間的・金銭的余裕は無く、急遽(きゅうきょ)5年前の桁を使うことになった。2018年は同航空研究会が優勝した年。かつて王者へと導いてくれた年代物の主柱に運命を託した。

滑空機の場合、人が走って揚力を発生させる。勝利の要はパイロットの青木智大(電気電子工2)。学力(知識)・実技テスト、プレゼンテーションを通し、3人の候補者から選ばれた。

メンバーからは「うちのパイロットはどこにも負けない」と折り紙付きだ。中高6年間はアメリカンフットボールに打ち込んだ青木。培われた体力と持ち前の運動センスはピカイチだ。最大の強みは「脚力」。

50㍍6秒台の俊足を生かした〝加速力〟で本番に挑む。
パイロットが乗り込むコックピットは、身長163㌢の青木に合わせて、小さな仕様にした。コックピットのスペースを抑え、ここ数年の機体と比べ約10㌔の軽量化を達成。「攻めた機体」に仕上げた。

同研究会のこだわりが詰まった全長約24㍍、重さ約38㌔の〝鳥〟だが、いまだ飛び立つことはかなっていない。メンバーからは「テストフライトがまだできていない」と不安の声が聞かれた。

試験飛行は、機体が浮くか否かを確認する重要な作業の一つ。だが、これまでの試験日は悪天候のためすべて中止。次の試験飛行は6月末の予定だ。天に祈り、飛び立てる時を待つ―。

「ここ数年は順位を落としている」とこれまでについて振り返る代表の岸井。「私たちの代で強い時代を取り戻したい。目指すは優勝」と熱く語った。

琵琶湖の空を舞う日は刻一刻と近づいている。現代のGarudaが新たな伝説を創造するため、残された時間で機体に磨きをかけていく。

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