いただきます! ㊴とんかつ山路
京王線・桜上水駅南口から出て、商店街を歩くこと約3分。ちょっとくすんだ朱色の庇が、定食店の歴史を感じさせる。
店主の山路順さん(72)が店を構えたのは20代のころ。大学進学がかなわず、受験勉強にも嫌気が差していたところ、とんかつ店の経営に関する本を書店で見かけたことがきっかけだ。
料理は知人の経営する飲食店で学んだ。出店場所を見つけるため、京王・西武新宿・小田急線沿いを一駅ごとに降りて探し回った。以来、約50年にわたりここで店を続けている。
人気店の秘密を聞くと「料理自慢でもなんでもない。ただ量が多いだけ」と謙虚な言葉がポツリ。確かに「とんかつ山路」の料理はリーズナブルで食べ応え十分だ。
近隣の大学運動部員たちの胃袋をわしづかみにしている。店内には明治大のラグビー部、本学のアメリカンフットボール部や陸上部からの色紙が壁一面にズラリ「いつもありがとうございます」とのメッセージが心にしみる。長年学生に愛され続けてきた証明だ。
メニューは開店当時とほぼ同じだが、学生のリクエストに応えるうちに、ゆで豚やゆで鳥を使った定食が増えていった。
さらに「一生懸命頑張っている運動部の学生を応援したい」という思いから、通常メニューにカレーやキムチなどをトッピングした特別な定食を提供することもある。繁忙時のランチには、30合の白米が2時間程度でなくなってしまう。
1番人気のメニューはチキンかつ定食だ。チキンかつW盛りのAセットと、チキンかつ一枚に鳥串かつ、あるいはゆで鳥ごま酢だれがついたB、Cセット。
どのセットも学生が多く訪れるランチタイムは580円、夜は680円で提供している。「高いお金をとって一流の料理を出すお店ではない。おなかいっぱい食べてくれる学生を相手にするのが好き」と話す山路さんの心意気が感じられる値段設定だ。
今回はAセットを注文。約10分後、ぬくもりのある木製のトレーに、ほかほかと湯気を立てた定食が運ばれてきた。チキンかつにソースをかけて一切れかむと、サックサクの衣と揚げたての香ばしい香りが口いっぱいに広がる。衣は肉と一体となりジューシーさを逃さない。しっとりと歯切れのよい食感がやすらぎさえ与える。
柔らか目のご飯との相性は抜群。かつ、ご飯、みそ汁、そして箸休めにお漬物。最後の一切れまでサクッとした歯ごたえが残るプロの味であっという間に平らげてしまった。おなかと財布に余裕のある方は、ロースかつ(680円)やヒレかつ(580円)なども追加で注文できる。
山路さんは、開店してから一度も値上げをしていない。しょうが焼き定食に至っては、一番手間がかかる料理にもかかわらず、950円から750円に値下げした。
「物価高騰の折、値段を下げて大丈夫なのか」と心配になるが、快活な笑い声が返ってくるばかり。そんな人柄こそ、とんかつ山路の一番の魅力なのかもしれない。おなかをぺこぺこにしてお店に入れば、心も満たしてくれるはずだ。
店主の山路順さん
東京都杉並区下高井戸1ー19ー7(京王線「桜上水駅」徒歩3分) 午後12時~午後2時、午後6時~9時 水・木曜定休
☎03―3321―8733
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