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総合

【論説】聖域なき改革断行の覚悟を

本学はなぜ不祥事の連鎖を断ち切れないのか。

旧体制の失敗を教訓に昨年7月に理事を一新、寄附行為の改正や主要職員人事も刷新したはずだ。しかし、今回アメリカンフットボール部で違法薬物事件が起こった。学生の犯罪とはいえ、大学側の危機対応の不作為と遅れが発覚、本学内外から厳しく批判されている。いくら制度が改まっても、リスク管理能力や組織運営、危機意識に問題があれば、ガバナンス不全は起こる。その根本原因にメスを入れるべきだ。

改革は「市ケ谷」止まり

本紙はこの1年、新体制を取材する中で学生への意識調査の結果などから、組織の危うさを感じ取り、本誌で指摘してきた。

まず本学全体に改革意識が浸透していなかった点だ。

林真理子理事長は「膿は出し切った」「議論は活発化している」と発言し、改革に自信をうかがわせていた。「新しい日大」を目指して尽力し、特別調査委員会や損害賠償請求など旧体制の後始末を断行した点は評価できるが、足元のリスク管理は十分だったか疑わしい。

本学は16学部、34競技部など約7万人の学生が集う。大企業並みの組織運営能力が不可欠なのに、本部中心の「市ケ谷改革」に追われ、改革は浸透していなかった印象が強い。7月の本紙調査でも学生の48・8%が新体制発足以後も「以前と変わらない」と回答。新体制の改革意欲は学生に伝わっていたといえない。

8月8日の記者会見では新たな事実が飛び出し、かえって問題を拡散させ本学のブランドイメージを著しく損なわせた。違法薬物の使用については、現場の指導陣は昨年に把握しておきながら、大学トップへの詳しい報告が大幅に遅れた。たとえグレーゾーンであっても、違法事案を認識したのなら即刻報告すべきだ。

昨年7月に大麻のようなものを吸ったと話した学生にも厳重注意で終わらせた。証拠物件がないとはいえ、事の重大さに照らすと軽い処分だ。

余計な忖度(そんたく)が働き「大ごとにしたくない」と考えたのなら、組織の危機管理上、隠蔽(いんぺい)を疑われ、命取りになりかねない。

問われるトップの判断

そして7月6日にアメフット部寮から見つかった大麻と疑われる植物片などを12日間も大学本部で保管していた対処も理解に苦しむ。澤田康広副学長は「大学は捜査機関ではない。学生に自首を促したかった」と会見で説明したが、植物片などを保持したままでの説得行為として、12日間はあまりにも長すぎるというのが一般的な感覚だ。

さらに植物片発覚の事案は酒井健夫学長や林理事長に報告されているが、その際に法律の専門家としての澤田副学長に委ね過ぎてしまった両トップの判断も、適切性が問われる。疑わしさが残る植物片などについて、警察当局への速やかな報告を指示すべきだった。

一方、林理事長は「スポーツ分野に遠慮があった」と会見で吐露している。

教学分野は酒井学長の所管とはいえ、競技スポーツに関しては2018年の危険タックル問題以降も、学生に対する指導方法や生活管理面で問題は少なくなかった。「学生ファースト」を掲げる以上、林理事長も率先し競技部の健全化に踏み出すべきだ。

ことし8月、本学は日本大学に校名変更して120年を迎えた。記念の年に大きな汚点を残した形だ。この危機的状況を打開できなければ、高校生やその親からも本学は敬遠され、来年の入学志願者数に悪影響が出るだろう。また、今年度予算で75%減額交付を見込む私立学校等経常費助成金も、全額不交付が続く可能性すらある。

危機管理能力を高めるには余計な忖度やつまらぬ遠慮は禁物だ。「日大生としての誇り」を学生や卒業生が持てるように、新体制は本学全体のあらゆる活動に目を向け、聖域なき改革を果断に実行する覚悟を決めてほしい。

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