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【特別インタビュー】 木村敬一さん ―可能性を広げてパリの舞台へ―

 高校時代からパラリンピック(パラ)の舞台に立ち続けているパラ競泳界のエース・木村敬一さん(34歳、大学院文学研究科教育学専攻博士前期課程修了)。2021年の東京パラでは悲願の金メダルを獲得。昨年はパリパラにも挑み、男子50メートル自由形(S11)と同100メートルバタフライ(同)で二つの金メダルを手にした。これでパラ出場は驚異の5大会連続。自分の可能性を信じ、世界の頂点を目指し続ける木村さんに聞いた。

取材=小泉真太郎  写真=小杉妃

きっかけは母の勧め 「安全に運動できる場所」求めて

 10歳の頃に母に勧められて水泳を始めました。2歳から目が見えなくなり、当時はぶつかったり転んだりして、けがをしてしまうことがありました。そんな様子を見ていた母が「思い切り安全に運動できる場所」はどこかと考え、行き着いた答えが「水泳」。地元のスイミングスクールに通い、新しいことを覚えていくプロセスを楽しんでいました。

仲間と練習を重ね、誰かと泳ぐすばらしさを実感

 高校時代に入ると、目標とする大会の規模も徐々に大きく変化。高校1年の頃には北京パラ(08年)に手が届くかもしれないと感じていました。そこからは練習量も大幅に増加。休みはほとんどなく、合宿漬けの日々でとてもハードでした。目が見えなくて、私と同じくらいの速さで泳げる高校生もいなかったので、ずっとコーチと一対一で練習。水泳が本当に面白いと思えたことはほとんどありませんでした。

本学で多様な仲間と出会う

 その後、教員志望だったので本学文理学部教育学科に入学。その際に同学部体育学科の野口智博先生に水泳を続けていくための相談をしました。すると、競技部の水泳部で練習するのは難しいとの話。だが「いい刺激になる場所がある」と、野口先生が顧問を務めていた同学部の水泳サークルを紹介してもらいました。

 同サークルのメンバーはインターハイ出場者から金づちの人までさまざま。泳げるレベルが幅広く、その雰囲気が非常に面白かったです。一生懸命に取り組む学生はもちろんですが、合宿に行ったらずっとお酒を飲んでいる学生もいる。いろんな人に出会い、さまざまな体験ができてすごく得をしたと感じます。

 次のロンドンパラ(12年)ではただ出場するだけではなく「メダルを取る」ことを目標にしました。練習の時間調整もしやすくなり、私の中で大きく変わったことは「誰かと泳げるすばらしさ」を実感したこと。そもそも競泳は一人で泳ぐもの。加えて高校生の頃はずっと一人で練習していました。しかし、サークルに入り仲間たちと練習することの喜びを実感。それだけで頑張れる度合いが全く違うことに気づかされました。その結果、ロンドンパラでは銀メダルを獲得できたのです。

「金メダル」追い求め渡米

 「ここまで来たら次はもう一個しか残っていない」―。そう思い、次のリオパラ(16年)では金メダルを目指しました。しかし、金メダルを獲得するには、さらに試練を課さなければならない。そこで野口先生に一対一で見てもらえるようにお願いしました。この時が練習の量と質ともに人生で一番マックスだったと思います。朝起きてから夜寝るまでの間、交わした言葉は野口先生とのあいさつだけだった日もありました。世の中から取り残されているような気分でした。
 
 そんな時期です。ちょうど次の五輪・パラが東京で開かれることが決まり、両方の選手が同じように注目を浴びました。「パラの選手が五輪の選手と並ぶ時に弱く見えたら恥ずかしい」と、五輪選手にも負けないように練習に励みました。
 
 リオパラでは結局金メダルは獲得できませんでした。その時は悔しさはなく、ただただ悲しかった。準備は十分にしていたし、すごく頑張った。それでも届かない。これはもう練習環境から変えなければならないと決心し、アメリカに渡りました。
 
 海外の生活は思い通りにいかないことばかり。レースも練習もなかなかうまくいかなかった。それでも、海外の友人に恵まれ、できることが増えていくことがうれしかった。日々生きていることを実感し、呼吸をしているだけでも成長していると思える。不思議な感覚でした。

東京・パリパラで悲願の「金」獲得

 東京パラはコロナ禍の影響で無観客。寂しさはありましたが、開催できてよかったとまずほっとしました。一方で、金メダルに固執しすぎたため、呪われているような感じになり苦しかった。それでも「金メダルを取らないと次には進めない」―。そんな思いの中で泳ぎ切り、悲願の金メダルを獲得しました。「これで水泳をやめてもいい」。とにかく安心しました。

 東京パラが終わった後、さまざまな活動をしていく中で水泳に「やり残したことがある」と思い始めたのです。泳ぎのテクニックにまだまだ課題があるといろんな人にも言われていました。今までは体力とパワーで勝ってきた面が大きかったが、技術を積み上げればまだいける。そのことをよりどころにパリパラへ出場しようと決めました。

星奈津美コーチの指導の下パリへ

 コーチは五輪メダリストの星奈津美さんに依頼。見てまねをすることができないため、直接手を動かしてもらったり、口頭で指導してもらったりしました。ただ頭でイメージできてもなかなかうまくいかない。けれども、何度も繰り返し練習に励みました。指導してもらう中で自分と健常者ではバタフライの泳ぎ方に違いがあることも分かり、知らないこともたくさん学びました。常に新しい発見があり、面白かったです。
 
 5回目のパラ。不思議と自分でも驚くぐらい緊張したのを覚えています。しかし、レース中は落ち着いて試合に臨めました。「泳ぎ切る」ことをテーマに、練習した技術を「丁寧に丁寧に」発揮することだけを考えていました。練習ではなかなかタイムが伸びませんでしたが、本番では自己ベストを更新し、金メダル。新しい技術でやり切れたことに大満足でした。応援してくれている方からは「泳ぎが良くなった」とのほめ言葉ももらえて、とてもうれしかったです。

パラ競泳界盛り上げる

 現役をいつまで続けるかは全く決めていません。もしかしたら明日やめるかもしれない。パリパラが終わったばかりなので、ゆっくりと時間をかけて考えていきます。

 ただ、今年の4月に日本で初めてパラ競泳の国際大会が開催されます。これは歴史的なことで、私たちにとっても驚くような出来事。全国の人たちに見に来てほしいため、まずはその大会に向けてパラ競泳界を盛り上げていきたい。そして、さまざまな活動を通じて自分の引き出しを増やせるような人生を歩んでいきたいです。

一生の友達をつくってほしい

 大学時代に共に過ごした友達は大人になってからできた友達とは違うもの。人生の良い時間も悪い時間も唯一一緒に過ごすことができる。私自身も大学時代の時に知り合った友達とはこの先もずっと共に過ごしていくと思っています。今いる友達を大事にして一生の友達をつくってください。

きむら けいいち 1990年滋賀県生まれ。2015年本学大学院文学研究科教育学専攻博士前期課程修了。21年東京パラリンピックでは男子100メートルバタフライ(S11)で金メダル。24年パリパラで同100メートルバタフライ(同)と同50メートル自由形(同)で2つの金メダルを獲得した。

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