連載・コーナー  2008年07月01日 13:13

■時間の人 秦 光賢専任講師

 人を笑わせることが大好きで歌ってばかりいた子どもが、長じて心臓外科医になった。今、病室の患者を前に歌い、病院のロビーでリサイタルを開き力強い歌声で患者を励ましている。2007年に二人組音楽ユニット「い・ぶ・く・ろ」(医袋)結成。作曲を手掛けたCD「心とハート」が今年6月4日に発売された。今も昔も変わらないのは「自分の持っているすべての力で患者を助けたい」という思いだ。

 小さいころから歌や物まねで周囲の人を笑わせていた。両親の勧めで物まね大会に参加し、何度も優勝。小学生のころは勉強が嫌いで逃げてばかりいた。しかし中学生のときに、実業家だった父が経済的理由で医者になることを断念したことを知り、医者になろうと決意。本学医学部に進学した。
 研修医時代、がん病棟を担当。外出もかなわない末期がん患者にリクエストカードを配り、歌を歌って勇気付けた。あるとき、手術を受けたばかりの高齢の患者から呼び出された。患者は不安そうなまなざしで痛みを訴えたが、高齢の患者の場合、鎮痛剤を使うと呼吸抑制などを起こす危険がある。東北出身という患者の手を握り「北国の春」を静かに歌い出した。1コーラスを歌い終わらないうちに患者はうとうとし始めた。続けて「星影のワルツ」。患者はそのまま朝までぐっすり眠った。「薬より自分の歌の方が患者を癒やせる」という確信が生まれた。「自分の歌を医療と結び付けたい」と考えるきっかけだった。
 「心とハート」の作詞者である石田恵梨佳さんはドイツで心臓移植を受けた。石田さんの詩の「今日から精いっぱい生きるから」という部分は、一番力を込めて歌うようにしている。いろいろな人に感謝し、新しい心臓とともに一生懸命生きよう|というくだりにはいつも心を打たれる。今後も医者として、ミュージシャンとして患者を救うための活動を続けていく。(咲)
1965年9月22日、東京都生まれ。42歳。96年本学大学院医学研究科博士課程修了。2004年から現職。

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